インタビュー:「希望的工具」アキラ・ザ・ハスラー

 
  • Akira the Hustler © Takayuki Mishima Courtesy of Ota Fine Arts
  • アキラ・ザ・ハスラーは1969年東京都生まれ。現在も東京都にて活動。2004年「Living together」プロジェクトを立ち上げ、2011年までHIVに関する情報センターやその他のマイノリティ・グループにおいて啓発活動を展開。現在、オオタファインアーツ上海で開催中の展覧会「When many pass one away…」では大型の平面作品と、立体作品を発表。今回は多岐にわたる制作の工程やその思想背景について、アキラにインタビューを行った。

    展覧会「When many pass one away…」についての詳細は、こちらをご覧ください。

  • アキラ・ザ・ハスラー: アーティストインタビュー

    O:OTA FINE ARTS | A:AKIRA THE HUSTLER
  • O:初めて作品を制作したのはいつ頃ですか?またそれについての背景(なぜ作品を作り始めたのか、もしくはなぜ作家になったのか)を教えてください。
    A:学生時代にも作品制作は行っていたのですが、よく遊びに行っていたクラブパーティーで可愛がってくれたアーティストでもあるドラァグクイーンの先輩が当時まだ「死の病」を引き起こすウィルスとして知られていたHIVに感染していることを表明しつつ、性的指向と社会、エイズと生、そして死の問題を作品のテーマとして取り上げて精力的に作品制作を続ける様子に少なからずショックを受けて数年間、作品制作から遠ざかり、社会運動に自らの重心を傾けていました。アートが世界をよりよくするための方法になり得るのか?ということを考える中で路頭に迷うような気持ちでした。

    もう一度アートに向き合おうと思ったのは20世紀最後の年だったと思います。まだ東京は恵比寿の古くて趣のあるビルの中の一室にあったOTA FINE ARTSで、三人のセックスワーカーでもあるアーティストによる展覧会に、自分たちの暮らしや性、人間関係についての日記を白い壁にピンで留めただけのシンプルなインスタレーション作品でした。自分の物語は黙っていても他の誰かが語ってくれるわけではなく、居ないものとされても構わないとは思えなかったのです。その程度には世界に対する執着があったのだろうなと思います。

  • Akira the Hustler in the studio © Akira the Hustler, Courtesy of Ota Fine Arts
  • O:作品のインスピレーションを得てから作品を完成させるまでの過程を教えてください。

    A:作品のインスピレーションを得たら、次の瞬間まで時間を置いてしまったがために忘れてしまった時の失望はもう繰り返したくないので寝ている時だとしても飛び起きてメモやスケッチを取るようにしています。

    実際にそれらのスケッチを作品化するまでにはひと月から長くて数年間、ブランクを置くことが多いです。それが形になって現実にあらわれる必然性が突然信じられる瞬間があるのです。

     

    O:あなたの作品の多くは特定の社会現象に対しての反応だと思いますが、どれくらい、またはどのようにアートは社会に影響を与えることができると思いますか?また、社会問題を反映した作品を制作する動機は何ですか?

    A:狭義のアートや美術は社会に影響を与えたり、社会問題の解決に与するための「道具」としては最も「遅い」ものなのではないかと思っています。でもその遅さが面白いです。

    音楽や映画のほうが遥かに早く人々を駆り立てる効果を与え得るものだと思います。そこをとても羨ましく思うこともありますが、そこは他分野との共同作業を行う中で広義のアートの役割を果たせるのではないかと考えます。また、正直な話をすれば、それが音楽の形を取るか、スクリーンに投影される光の形を取るか、キャンパスに飛び散った絵具の形を取るかというのは単なる形式の問題だという気もします。時間がかかる遅効性のアートフォームなりの魔術のような力が狭義のアートにはあると信じたいです。

    社会問題を反映した作品を作っている意識はあまりないですが、何も問題がなく満ち足りた気持ちで人生を送っている自分を想像すると、そこでは作品制作に向かうことはないかもしれません。怒りや悲しみが作品の源泉になっているのかもしれないです。

  • Akira the Hustler, Cloud Man (each/together), 2017-2019, FRP, acrylic, wood, steel, 240 x 239 x 71 cm © Akira the...

    Akira the Hustler, Cloud Man (each/together), 2017-2019, FRP, acrylic, wood, steel, 240 x 239 x 71 cm

    © Akira the Hustler, Courtesy of Ota Fine Arts

  • O:いくつかの作品において、人の頭が雲や動物の頭になっていますが、なにか象徴的な意味はありますか?

    A:小さい雲が千切れたり、また重なり合ったりくっ付いたりして形や大きさを変える様を見るのがとても好きです。群衆のようだと思うことがあります。

    街を行くデモ隊やパレードを見ていて、雲の群れのようだと話をしたことがあります。その中に名の知れた人がいたとしてもあまり関係がなく、そこに意思のみが存在し、ゴールに到達したらパッと散って、それぞれの場所へ帰っていく景色は美しいと思うのです。

  • Installation view: 'Ordinary Life', 2012, Ota Fine Arts Tokyo, Courtesy of Ota Fine Arts
    Installation view: 'Ordinary Life', 2012, Ota Fine Arts Tokyo, Courtesy of Ota Fine Arts
    Installation view: "Ordinary Life", 2012, Ota Fine Arts Tokyo, Courtesy of Ota Fine Arts

     

  • O:作家としてCOVID-19の状況下で何か共有したい(発信したい)考えはありますか?

    A:HIVの予防を考えた時に、コンドームを使うことを初めとした「Safer(より安全な)」という概念に大きな感銘を受けたことを覚えています。完璧な安全(Safe)を期するのであればセックスは不可能になる。そこで発揮された創造性に大いなるヒューマニティを感じたのです。

    COVID-19を考えたときに、完璧な安全を求めようとすると暗い部屋の中で閉じこもる自身の姿を想像して暗澹たる気持ちになります。

    こんにちのパンデミックの下で考え得る「より安全な」生き方の発明。そして、ルールや申し合わせを破ってでも成就したいものがあるとすれば、それは何なのだろうな。そんな二つのテーマを巡ってこの数ヶ月を過ごしています。

  • Artworks

    • Akira the Hustler Islands (And People) in an Ocean Current, 2020 Monotype print, oil pastel, oil on paper 72.5 x 84.2 cm
      Akira the Hustler
      Islands (And People) in an Ocean Current, 2020
      Monotype print, oil pastel, oil on paper
      72.5 x 84.2 cm
    • Akira The Hustler Bonfire, 2019 Woodblock print on paper 84.6 x 84.6 cm (Paper) / 110.5 x 110.5 cm (Framed) 1/3 + 1 A.P.
      Akira The Hustler
      Bonfire, 2019
      Woodblock print on paper
      84.6 x 84.6 cm (Paper) / 110.5 x 110.5 cm (Framed)
      1/3 + 1 A.P.
    • Akira the Hustler Individualists, 2020 Wood, stone modeling clay, acrylic gouache Dimension variable
      Akira the Hustler
      Individualists, 2020
      Wood, stone modeling clay, acrylic gouache
      Dimension variable

  • アーティストについて

    アキラ・ザ・ハスラー、1969年東京都生まれ、現在も同地にて活動を続ける。2004年「Living together」プロジェクトを立ち上げ、2011年までHIV陽性コミュニティーとその他のマイノリティ・グループの認識を広める活動を展開。近年の展覧会に「STREET JUSTICE: Art, Sound and Power」Galaxy銀河系、東京(2018年)、「リボーンアート・フェスティバル2017」石巻市、宮城(2017年)、「ラヴズ・ボディー-生と性を巡る表現」東京都写真美術館、東京(2010年)など。主な収蔵先にCollection Lambert(フランス)、ワタリウム美術館(日本)など。